DREAM20 樹木医・造園家 森 陽一(もり よういち)さん

ページ番号1008091  更新日 令和3年1月26日

木はまちの文化を守る

樹木医(※1)、造園家として国内外で活躍する森さん。桜の名所として知られる福岡市の舞鶴公園や西公園、佐賀県五ヶ山ダムの樹齢約700年の大杉の移植、春日神社のクスノキなど、多数の名木にも関わっています。令和2年11月には黄綬褒章(※2)を受章しました。春日市で木と共に育った森さんが考える、まちと木の関係について聞きました。

写真:春日神社のクスノキの前に立つ森さん

父の姿を見て学んだ

造園家になったきっかけは

家業が造園業だったんです。子どもの頃から父の姿を見て、手伝いもしていたので、基本的なことは体に染み付いていました。でも、昔は機械などがなく大変な仕事と言われていて、継ぐことは考えず、高校卒業後は一般企業に就職しました。

ただ、親が造園業を一から始めて確立してきたのに、誰も引き継がないのはどうだろうかと思い、34歳のとき、造園業に足を踏み入れました。

写真:30代の頃に手掛けた海の中道海浜公園の日本庭園
30代の頃に手掛けた海の中道海浜公園の日本庭園

「木の医者」として仕事の幅を広げる

どのような経緯で樹木医になったのですか

造園家として働く中で「木に穴が開いている」、「木が倒れそう」などの相談が寄せられていました。見聞きした「治療」の技術はあったので見よう見まねで対応していたところ、平成3年に農林水産大臣認定事業として樹木医の制度が始まりました。受験者の大半は専門職か研究者などで、一般人である自分には縁のない資格だと思っていました。しかし、造園家で樹木医になった人がいるとの話を聞き、自分にも受験資格があると分かり、一生懸命勉強して2回目のチャレンジで合格しました。43歳のときです。当時の合格者は全国で80人、福岡県からは2人という難関で、資格が取れたときはとてもうれしかったです。

合格後に2週間の合宿研修に行ったのですが、同じ目的をもって切磋琢磨した当時の仲間とは、20年経った今でも情報交換をしたり、相談し合ったりしています。

最も印象に残っている事業は何ですか

佐賀県と福岡県の境に建築される五ヶ山ダム水没予定地にあった樹齢約700年の大杉の移植を行ったときのことです。世界中どこにも前例がなく、それぞれの専門性を持つ関係者と一緒に調査の段階から関わりました。私の役割は、杉が移植後も元気に生き続けることができるように移植の計画を立てることでした。的確な資料、情報を提供して、それを基にいろいろな計画を組み立てていく責任重大な作業でした。今もその木の管理をしていますが、とても元気です。調査の段階から数えるともう10年以上関わっています。

写真:佐賀県五ヶ山ダムの大杉
移植した佐賀県五ヶ山ダムの樹齢約700年の大杉
仕事の中で心掛けていることは

人に喜ばれる仕事をすることです。そのためには、信用してもらうことが必要で、そうすれば信頼関係が築けます。

先代から、「お客様の良し悪しはお金の大小ではない。信用と信頼が一番。座敷に案内される人になりなさい」と言われてきました。私は仕事をいただいたことに、お客様にとってはいい仕事をしてくれたことに、それぞれ感謝できる関係が素晴らしいと思います。

心に残るのは文化的なもの

春日市内ではどんな仕事に関わっていますか

春日神社のクスノキなど、造園家としても樹木医としても春日市の木と関わっています。中でも一番思い入れがあるのは、母校である春日小学校のセンダンの木です。この木は、道路拡張に伴い、伐採される予定でした。しかし、私にとっても思い出のある大事な木だったので、移植の提案をしました。立地条件が悪くてまともに根からしっかりと抜くことができる場所ではなく、難しい作業でしたが、今も小学校の校庭で元気に生きています。

私は、未来に残るものは文化的なものだと思うんです。建物は、100年後には建て替わっている可能性が高いですが、文化は残り続けます。その1つが「木」だと思います。木は人が手助けしないと朽ち果てていきますが、大事にしていると100年も1000年もずっと育ち続けます。そうして、文化的なものがまちのシンボルになり、それが愛着になる。学校の木も同じです。学校の校舎が建て替わってしまったとしても、校門の横に木があったということはみんな覚えていて、それが愛着になります。木には人それぞれの思いが宿っているのです。

写真:春日小学校の木を診断する森さん
思い出のセンダンの木(春日小学校)
黄綬褒章の受章おめでとうございます

褒章など縁はないと思っていましたが、たくさんの仕事を通じて人との関係性を築き、福岡県樹木医会や福岡県造園協会などの団体の役員をするまでになりました。そして、自分の役割を全うしてきたことが認められ、さまざまな人からの推薦をいただき、今回の受賞につながったと思います。大変ありがたいことです。

森さんにとって造園業、樹木医とは

天職です。造園業は感性が一番大事だと思います。感性には人それぞれ得意な分野がありますが、自分の感性が伸びていく職種、それが天職であり、私はその職業に就けていると思います。感性は磨かなければ光りません。自分が感動したものを見て、「どうしてこのようにできるんだろう」、「どうしてこんなに素晴らしいんだろう」と疑問を持つことが大事です。それを1つずつ解決していくと、それが自分のものになっていきます。

努力していれば誰かが背中を押してくれる

夢に向かって頑張る皆さんにメッセージを

私も樹木医になってから何本も木を枯らしたことがあります。失敗もたくさん経験しました。それでも、努力だけは続けてきました。皆さんにも、自分の信じる道なら迷わずに進んでほしいです。そして、努力をすること。でも、その努力の後ろ姿は誰かが必ず見ていて、助けてくれるものです。つらい時もありますが、必ず道は開けるので、前向きに一歩を踏み出してください。

 

※1 樹木の調査・研究、診断・治療などを通して、樹木の保護・育成・管理や樹木に関する知識の普及・指導などを行う専門家。

※2 農商工業などの分野で、他の模範となるような技術や事績を有する人に内閣府から授与される褒章。

プロフィール

春日小学校・春日中学校出身。株式会社森園芸場代表取締役。夢は桜前線と共に全国の桜を観て回る旅に出ること。

夢サポート

生垣奨励補助金

潤いのある緑のまちづくりの一環として生垣を奨励しており、費用の一部を春日市が補助しています。詳細については、次のリンク先を確認してください。

このページに関するお問い合わせ

春日市役所
〒816-8501
福岡県春日市原町3-1-5
電話:092-584-1111(代表) ファクス:092-584-1142